SDGsと企業経営(4)SDGsとリーダーシップ

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SDGsと企業経営(4)SDGsとリーダーシップ

岸 和幸:キシエンジニアリング㈱代表取締役、㈱ コンサルティングアソシエイツ・コンサルタント

目次
-エコシステムとエゴシステム
-自己変容型知性
-存在価値の創出

-変革推進リーダーシップ
-リーダーシップと組織デザイン



エコシステムとエゴシステム

『今日の実体経済は高度に相互依存的なエコシステムの集合であるが、その中のプレーヤーの意識は多くのエゴシステムに分裂している。エコシステムの現実とエゴシステムにとどまっている意識のずれこそ、企業、政府、市民社会を問わず、今日のリーダーシップに突き付けられた最も重要な課題だろう』(「出現する未来から導く」C・オットー・シャーマー著(英治出版))

20世紀型の企業はこれまで、経済性を優先して環境や社会への配慮はその次というトレードオフ的な経営をしてきました。しかし、全体的な調和を図る21世紀型企業へ早急にチェンジし、人類共通の解決すべきテーマ「SDGs」を推進することが社会から強く求められており、活動により持続的成長も期待されます。

但し、そのためにはオットー・シャーマー博士(MITスローン校経営学部上級講師、「U理論」で有名)が言うように、『組織のエゴシステム意識(自分の部門を中心とするニーズの意識)と、事業全体のエコシステム(企業を取り巻く社会や自然環境と相互に作用するシステムの意識)との溝を埋めて、組織内外の壁を超えた協働と確信を促す』ことを導くリーダーシップが必要です。


自己変容型知性

ロバート・キーガン教授(ハーバード大学教育学大学院教授)は、研究で人間の脳には生涯を通じて適応し続ける能力が本来備わっていることを明らかにしました。教授によれば人間の知性には、「1.環境順応型知性」「2.自己主導型知性」「3.自己変容型知性」という発達の段階があるそうです。この三段階の知性は、世界の理解の仕方と、世界で行動する際の基本姿勢がまるで異なります。(詳しくは図1を参照)





『今日の世界では、それまで環境順応型知性で(言い換えれば「良き兵隊」)十分だった働き手たちに自己主導型知性への移行が、自己主導型知性で(「自信に満ちたキャプテン」)十分だったリーダーたちに自己変容型知性への移行が求められるようになっている。要するに、働く人すべてが知性のレベルを次の次元に向上させる必要がある。』(「なぜ人と組織は変われないのか」英治出版)

教授によれば、ほとんどの働き手は自己主導型知性の段階に達しておらず、ほとんどのリーダーは自己変容型知性を持っていないそうです。米国で各業界のトップに立つ21の企業のCEOでは、自己主導型より高いレベルの知性を持っていたのはわずか4人でした(1998年ジョージア大学の研究結果)。尚、段階の移行を阻む免疫機能がもともと人間にはあるのですが、「心の底(理性ではなく本能)」「頭脳とハート(思考と感情の両方)」「手(行動を伴う思考)」の三要素を備える人はこれを跳ね除けて、知性の移行を成し遂げることができるといいます。


「存在価値の創出」

VUCA的変動の中、巷ではUber(モビリティ)、Airbnb(宿泊)、WeWork(オフィススペース)などディスラプター的企業による「破壊のイノベーション」が起こり、既存の業界・企業の存続を脅かし始めています。WindowsによりPC全盛期の覇者であったマイクロソフトは、スマホ時代の到来で2000年代後半に業績が停滞。2014年CEOに就任したサティア・ナデラ氏は、「自社の存在価値とはいったい何であるか」を見つめ直し、「Officeを始めとするアプリケーションこそがその価値」であると考え、脱Windowsとしてサブスクリプションモデルに移行し、パートナーシップ中心の戦略を成功させました。ちなみに同社はSDGsの目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」について、再生可能エネルギーの利用率100%を宣言した後に達成しています。

葉村真樹氏(LINE株式会社 執行役員)は、「自分が生き残るためには何をすべきか」でなく「自分は世界に何をもたらすべきなのかという魂」を考え、次に来るべきディスラプションの勝者へと舵を切ったとナデラ氏のリーダーシップを賞讃しています。『売り上げ規模を極大化し、利潤を上げて、株主に還元するという資本主義では当たり前のことができるのは企業として素晴らしいことである。しかし、それがその企業の本当の存在価値ではない。あくまで成し遂げたい未来があるから、その未来を実現するための事業に賛同する人たちが投資を行う』(「破壊」ダイヤモンド社)

このようにリーダーは、自社の存在する意義や価値を見つけることが大切です。野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)も、『共通善(世のため人のために何が‘Good’か、という自分なりのブレない価値観)を意図したイノベーションを持続する企業の本質は、社員一人ひとりが持つ高質な思いであり、その思いを組織の皆が共有して組織全体の思いにできるかどうかにかかっている。思いを持つには、現実と向き合い、格闘し自分の信念を自身の中から紡ぎ出さねばならない。自分の熱い思いでリスクをとって、試行錯誤の中でつかみとる思いがイノベーションにつながるといえよう。』(「MBB:思いのマネジメント」東洋経済新報社)と語り、これを奨励しています。




変革推進リーダーシップ

さて様々な企業では、階層別研修などを通してリーダーシップやチームワーク、コラボレーション等の機会に社員を送り出し、その後腕を奮ってもらうことを期待しています。ところが、組織によっては実際に学びを終えた社員から「いざ現場で応用しようとすると組織内の壁に阻まれる」といった残念な声が聞かれたりします。

マイケル・ビア氏(ハーバード・ビジネス・スク-ル名誉教授)によれば、組織には①方向性の見えない戦略や価値観②チームとして機能しない上級幹部陣③トップダウン、または放任主義的なリーダーのスタイル④組織設計の不備による事業、機能、地域間の連携の欠如⑤人材開発に向けられる経営陣の時間と関心の乏しさ⑥組織の有効性を損なう障害物を幹部に報告することへの社員の恐怖心(サイレントキラー)という「変革を阻む6つの障壁」が存在するそうです。

このような壁がある場合、社内では今までになかったことを始めようとすると「前例がない」「答えがない」「予算がない」と言われ、実施するのは大変困難です。それに対して、リーダーはどのように攻略すればよいでしょうか?組織の特性により適した方法はそれぞれ異なるでしょうが、これに挑むリーダーの思いの強さとその戦略は欠かせません。例えば、大赤字であったUSJでマーケティング本部長としてリーダーシップをとり、V字回復の立役者となった森岡毅さん((株)刀CEO)は、「人間の本質である自己保存を逆手にとり、組織の壁を攻略した」といいます。

『誰も成功したくない人はいないのです。みんな自分の強みを生かして大きなプロジェクトに参加したい。ただしそれは「リスクの低いこと」が条件になります。人を動かしたいならば、自分の提案を相手にとってローリスク・ハイリターンになるようポジショニングすべきです。(中略)それぞれの人の強みと弱みを上手く組み合わせて、ボトルネックを消し、最大限の成果があげられる人。組織を強くすることができるわけですから、会社にとってなくてはならない人になるのです。』(「マーケティングとは「組織革命」である」(日経BP社)。


リーダーシップと組織デザイン

ウォレン・ベニス氏(南カリフォルニア大学リーダーシップ研究所創立者)は、『今日の社会で評価されるのは、肥大化して扱いにくくなった組織を小型化し、合理化し、業績を好転させられるリーダーだ。一方、未来の社会で求められるのは、まったく新しい形の組織をつくり、未来の変化を見越して、組織を適切にポジショニングできるリーダーである』と言いました。

森岡さんは、企業が長期に渡り生存競争を生き抜くための理想的な組織モデルは「人体」であると書いています。人体を構成する各器官はそれぞれの役割を果たしつつ、互いに支え合いながら全体が連動して、生存確率を上げるように動いていますが、組織がこれと同様に、目的達成を目指して協力し合い高効率な仕事を進めることが理想。そして役割の違いはあるものの、本来そこに優劣や上下関係はないといいます。

これは「ティール組織」(旧来組織とは大きく異なるセルフマネジメント(自主経営)やホールネス(全体性)、組織の存在目的などの組織構造や慣例・文化を持つ新たな組織モデル)を思わせる発想です。ティール型の組織は、存在目的(「パーパス」)を大事にしており、地球環境や社会とのつながりに目をやり、その課題解決を目的化したユニークなスタートアップ企業が日本でも増えつつあります。

 また21世紀型企業には、リーダーの思いや実践と共にそれに対するフォロワーの共感を得ることも大切です。キングダム経営学」(日経ビジネスオンライン)で、麻野耕司氏(リンクアンドモチベーション取締役)は『今の社会を見てみると、特に若い世代は、単に給料や昇進のためだけに働いているわけではありません。それよりも重視しているのが、仕事のやりがいや共感できる未来。そういったエンゲージメント(絆やつながり)を軸に働くようになっているわけです。』と言っています。このエンゲージメントによるフォロワーは社内に限らず、さまざまなステークホルダーが成り得る可能性があります。

サステナビリティに向けて従来から大きく変化してきた企業の組織やリーダーの姿が見えてきました。次章では、サステナビリティ経営の戦略をどのように進めていくかを考えてみます。

★第5章「SDGsと事業戦略」(https://www.caconsul.co.jp/media/2019/09/30/16 )で続きをご覧ください。


★「SDGs関連サービス」
は(https://www.caconsul.co.jp/businessarea/sdgs.html)をご覧ください。


以上



筆者プロフィール
岸 和幸 (きし かずゆき)
キシエンジニアリング㈱代表取締役、㈱コンサルティングアソシエイツ・コンサルタント、Cremony代表
1965年生。大学卒業後、IT企業で12年間金融保険系のSEに従事する。その後、2001年より(株)リコーでシニアスペシャリストとして生物多様性・生態系保全の新規事業開発に取り組む。
(事業ミッション) 企業主体による持続可能な社会の共創
(主な新規事業) 国内・海外での森林生態系保全プロジェクト推進、社員の環境保全
リーダー育成研修、ステークホルダーとの環境コミュニケーション、等
2012年独立。「サス学」(商標登録:三井物産)の開発に参画し、子ども~社会人に至る思考・表現・共創の能力向上に取り組む。「非認知能力」を高める人間学や脳科学の勉強会も主催。 
(主な外部委員、著作物)
・環境省 森林保全活動における民間企業とのパートナーシップ構築方策検討調査委員 2008年 
・企業と生物多様性のイニシアティブ(JBIB) R&D部会長 2008~2010年 
・東北大学 生態適応コンソーシアム運営委員 2009年~2011年
・共著:『企業が取り組む「生物多様性」入門』(日本能率協会MC)

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