SDGsと企業経営(3)SDGs推進のために

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SDGsと企業経営(3)SDGs推進のために

岸 和幸:キシエンジニアリング㈱代表取締役、㈱ コンサルティングアソシエイツ・コンサルタント

目次
-存在感を失いつつある日本企業
-企業の変革を阻むもの
-SDGsとパーパス(存在意義)

-SDGsウオッシュはNO
-SDGsと6つの資本

「存在感を失いつつある日本企業」

 世界がリーマンショックの大きな影響を受けた2009年。それから10年経過した今年3月の企業決算。日経ビジネスオンライン(20190527)の記事が印象的でした。

『株式市場は、この10年間で世界の大手企業にどのような評価を下したのか。上位100銘柄で存在感を増しているのが、米ネット企業と中国勢だ。米アップルや米アマゾン・ドット・コムなどテック企業が上位にずらりと並ぶ。中国勢は10年前には10社だったのが、今年は14社まで増えている。一方、急速に存在感を失いつつあるのが日本勢だ。10年前にはNTTドコモやホンダなど5社がランクインしていたが、足元では2社しかない。』(日本企業2社はトヨタとソフトバンクグループ)。

ソフトバンクの孫会長は、『日本企業の経営者は、従来の事業に固執する。最大の問題点はドメインの見直しができないところだ』と語っていますが、同社は81年創業時にパソコン用パッケージソフトの流通を手掛け、その後出版、インターネット、通信、AIと常に「戦う領域」(ドメイン)を変えてきました。一方で欧米企業を見ると、シーメンスやフィリップス、GE、IBMなど各社は時代に合わせて事業構造を大幅に変えながら、持続的経な経営を進めています

IBMは、三つの基本信念「従業員に十分に配慮する」「顧客を満足させるためには時を惜しまない」「最善をつくす」を持っています。同社の2代目社長トーマス・ ワトソン Jrは、『世界は変化している。この難題に組織が対応するには、企業として前進しながら、(その基礎となる)信念以外の組織のすべてを変える覚悟で臨まなければならない。組織にとっての聖域は、その基礎となる経営理念だけだと考えるべきである。』と述べました。

「企業の変革を阻むもの」

 『ダーウィンは、ありとあらゆる環境に競争が存在すると考えました。植物は、効率よく水を吸収できる株とできない株では、前者のほうが生き残る可能性が高くなります。飛び方の上手なスズメとうまく飛べないスズメは、お互いが戦うわけではありませんが、前者のほうが高い確率で生き残っていくでしょう。』(「ダーウィン種の起源」長谷川眞理子著NHK出版)

成長から成熟の市場という環境を共に相手にしながら、生き残りに向けて変われる欧米企業と変われない日本企業。この差はどこにあるのでしょうか。「ザ・会社改造」(日本経済新聞出版社)を書いた三枝匡氏(㈱ミスミグループ本社シニアチェアマン)は、12年間にわたる会社の改革により、売上高4倍・営業利益5倍・社員340人の商社からグローバル1万人企業へと成長させたことで有名です。三枝氏は、日本的組織が持つ潜在的欠点を次のように指摘しました。「外から来る者に恐れを抱きやすい」「外部環境の変化にすばやく対応できない」「従来の組織の信念から外れるものを拒絶しやすい」「そのため新しいアイデアを排斥しやすい」

悩める日本の経営者の中には、危機感をあおれば組織は変わり変革がうまくいくのではないかと思う方もいます。ところが、これは却って逆効果であると金井壽宏教授(神戸大学大学院経営学研究科)は言います。『確かに危機感は大事だ。でも、煽るばかりではいただけない。程度というものがある。個人も、集団も、組織も、脅威がほどほどであれば危機感や最適ストレスになり、そこから変革も学習もはまる。しかし、あるレベルを超えると硬直を招き、判断停止になりかねない。』(「組織変革のビジョン」光文社)

リーダーが危機感のシグナルをどのように出していくのかが、組織変革の大切なポイントになる」と金井教授はアドバイスします。そこで最近注目されているのが、「パーパス」を明確に掲げた経営です。

「SDGsとパーパス(存在意義)」

「パーパス」とは、「なぜあなたの会社は存在するのか?」という存在意義を明確にしたもの(図1参照)。SDGs達成の主力である企業は、自社のパーパスを明文化して活動を進めることで、社会からの支持をより得られることが期待できます。


(図1)

「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」というパーパスを掲げる、世界最大の食品会社ネスレ。これは『同社の経営原則であるCSVを実現する上で、ネスレの全ステークホルダーと基本的な価値観を共有する必要がある。』(ネスレ日本CEO高岡浩三氏)との考えからですが、同社ではCSVを前会長が打ち出し、パーパスは現会長が提唱したといいます。危機感のシグナルを出す一つの例でしょう。

『10年前より、事業活動における原則としてCSV(共通価値の創造)を掲げています。株主や従業員などすべてのステークホルダーとともに社会全体のために価値を創造することが、長期的な成功につながると感じたからです。CSVやビジョンを達成するうえで、ネスレという会社が何のために存在しているのかを、まず理解してもらうべきである。そこからネスレのパーパスが生まれました。』(「Diamond Harvard Business Review 2019.3」高岡氏インタビュー)

「直感と論理をつなぐ思考法」で注目されている佐宗邦威氏(biotope(株)代表取締役)は、パーパスが重要視され始めている潮流を、次のように診ています。『グーグルやアマゾンなど21世紀型組織は、自分たちが知識創造のプラットフォームとなり、多種多様なヒト、モノ、カネ、データを呼び込み、チエを生む。(中略)長期的で大きな成功を拠り所に自分たちとともに挑戦してくれる従業員や投資家を集めるには、自社の事業プランの収益性を語ることで理性に訴えかける以前に、人類の進歩に対して果たすべき意義を語ることでまずは直感に訴えかけ、人に行動を起こさせる動機付けを与えることの重要性が増したのである。』(同上)

自社の存在意義を発信していく「パーパス・ブランディング」は、社内の変革空気を高めると共に、企業が中長期的な価値を高めていくことを望むESG投資機関や、企業が社会をより良い方向に変革する担い手であることを求めるZ世代の人々からの高い支持につながります。もちろん意義と共に、SDGsの課題解決につながるCSVで成果をどれだけ上げられるかで評価は変わります。


「SDGsウオッシュはNO」

ところで、近年米国では株主提案の動向が大きく変わり、ESG関連の提案では従来多かったG(ガバナンス)関連から、ES(環境社会)関連へと軸足を移しています。株主は、事業活動によるES関連への影響を重視し、企業に対する情報開示を求める声を大きくしているようです。ESG投資額が世界第2位である米国のこの状況は、今後日本でも同様になることが予想されます。

企業がサステナビリティ経営の情報開示を行う上で、「情報の開示方法統一」、「6つの資本」という国際的な動きが二つあります。

「情報の開示方法統一」について、GRIと国連グローバル・コンパクトが“SDGsとビジネスの関係性を示す「ゴールとターゲットの分析」”、“SDGsの情報開示に関する具体的な手順を示す「SDGsを企業報告に統合するための実践ガイド」” という二つの指針を発表しました。

これまで企業の情報開示では、自社活動がSDGsのどの目標につながっているかを紐づけして表示するところで留まり、具体的な内容が見えないものが多くありました。しかし、今後はこの指針が示す共通指標により、企業のSDGs活動を相対評価することが可能になります。また環境社会にどのような負の影響を与えているかのネガティブ情報も求められており、こうした情報の開示を不足させて自分たちに都合の良い情報ばかり公開している企業は、「SDGsウオッシュ」との批判を受けることになります。


「SDGsと6つの資本」

 「6つの資本」とは、財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本(図2参照)。IIRC(国際統合報告評議会)が中心になって、安定的な資本市場の発展と持続可能な社会の発展が達成されるような資本配分や企業活動が行われるように推進しています。


(図2)企業経営の「6つの資本」


企業は、経営を進める上でこれらの資本を組み合わせて製品やサービスを提供し、自社と他者のそれぞれに対して価値を創造します(前者は株主や債権者への還元につながるものであり、後者は社会を含むステークホルダーへの価値)。この価値を創り出す過程において、6つの資本をどのように増加・減少・変換させたかを情報開示することが重要になります(図3参照)。



(図3)

第1章「SDGsとは何か」の「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」現況で紹介したように、トレードオフ型の旧来事業が世界的に拡大した結果、自然資本の消費が加速して自然生態系は著しく劣化しています。また地域社会によっては事業の影響で、負の影響を与えられるリスクがあります。SDGsに対する取り組みを怠り、自然資本や社会・関係資本を減少させる企業には、市場から退場を求める声が出てきてもおかしくないでしょう。

企業がサステナビリティ経営を前進させることは、このように待ったなしの状態です。そして持続可能に向けた変革を進めるためには、「パーパス」に基づく強い意志を持ち、「アウトサイドイン」の視点で課題を認識して組織を動かしていくリーダーシップある人材の育成も大切です。


★続きは、第4章「SDGsとリーダーシップ」(https://www.caconsul.co.jp/media/2019/08/20/14 )をご覧ください。


★「SDGs関連サービス」
は(https://www.caconsul.co.jp/businessarea/sdgs.html)をご覧ください。



以上

筆者プロフィール

岸 和幸 (きし かずゆき)
キシエンジニアリング(株)代表取締役、(株) コンサルティングアソシエイツ・コンサルタント、
Cremony代表
1965年生。大学卒業後、IT企業で12年間金融保険系のSEに従事する。その後、2001年より(株)リコーでシニアスペシャリストとして生物多様性・生態系保全の新規事業開発に取り組む。
(事業ミッション) 企業主体による持続可能な社会の共創
(主な新規事業) 国内・海外での森林生態系保全プロジェクト推進、社員の環境保全
リーダー育成研修、ステークホルダーとの環境コミュニケーション、等
2012年独立。「サス学」(商標登録:三井物産)の開発に参画し、子ども~社会人に至る思考・表現・共創の能力向上に取り組む。「非認知能力」を高める人間学や脳科学の勉強会も主催。 
(主な外部委員、著作物)
・環境省 森林保全活動における民間企業とのパートナーシップ構築方策検討調査委員 2008年 
・企業と生物多様性のイニシアティブ(JBIB) R&D部会長 2008~2010年 
・東北大学 生態適応コンソーシアム運営委員 2009年~2011年
・共著:『企業が取り組む「生物多様性」入門』(日本能率協会MC)
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